歯科衛生士学校の教員として働く
東京都中野区にあるアポロ歯科衛生士専門学校で働く先生にインタビューをしてきました!学校の先生として働く楽しさややりがい、就職するときのチェックポイントなどを中心にお話をお伺いしています。
学校法人アポロ学園
アポロ歯科衛生士専門学校
荒木 久美子 さん
歯科衛生士の専任教員になるまでに歯科医院での勤務は何軒経験しましたか?
1軒です。学校から紹介されたところで保険診療をしていない、補綴がメインの歯科医院で13年間働いていました。
今と違い、ネットや求人誌などなく、学校の紹介先で勤めている人が多かったです。
1軒目の歯科医院はどのようなところでしたか?
1日の患者が10名前後で、新幹線で来院される方も多く、歯科治療に対して意識の高い患者さんが多かったため、働きやすい職場でした。
13年間で学んだことや辛かったことはありましたか?
保険診療を行っていない歯科医院だったので保険証をもってきた患者さんをお断りをしないといけないのは辛かったですね。
今なら自費診療の理解もあると思うのですが、当時は「なんで診察できないんですか?」と言われて。
二十歳そこそこの私には、年齢差のある方に納得してもらうように説明することが大変でした。
逆に、さまざまな方が患者さんとしていらしていたので、人との関わり方というのは学べました。
また補綴がメインのクリニックだったので、診療補助の業務が多かったですね。予防業務は少なかったと思います。
働きやすい歯科医院から、なぜ歯科衛生士の専任教員になろうと思ったのですか?
結婚をして歯科医院を退職しようと考えていたんです。
それで後任の歯科衛生士さんをお願いしに、学校に行きました。
ちょうどその頃、歯科衛生士教育が2年制教育に代わるときだったんです。
それで講師が必要だったようで、校長先生に少し手伝ってくれないかしら」と言われたのがきっかけです。
講師なんてやったことないので「私にはできない」と思ったのですが、
「日々診療室でやっている事を教えれば大丈夫、先輩の教員や歯科医師の講師もいて相談できるし、一人でなんでもやるわけじゃないから大丈夫。」 と言っていただけたので、新たなチャレンジをしてみようと思い、週1~2回くらいで少しずつ働くようになったんです。
まさかこんなに長い教員生活になるとは思わなかったですね(笑)
まず非常勤講師として働きはじめてからはどのような業務をおこなっていましたか?
非常勤のうちは主に実習の指導をしていました。
予防処置ではスケーリング、ポジションニング、診療補助では、器具の説明と取り扱い方、消毒滅菌法などですね。
そのうち少しずつ講義もするようになっていきましたね。
専任教員として働き始めて戸惑ったことはありますか?
今のように教科書も充実していないですし、授業のための資料もすべて自分で作らないといけなかったので初めはものすごく大変でした。
臨床で働いていたときは、一つひとつの行動に理由付けをしていなかったのですが、学校では原則に基づいて教えていかないといけないので、診療補助や予防処置業務も基礎から確認しなおしました。
専任教員として勤務して、初めは不安があったと思うのですが、どのようにして自信をつけていきましたか?
学校で教えるために基礎から勉強したり、授業をわかりやすく伝えられるように、先輩の専任教員から指導を受けたりして不安をなくしていきました。
一般の教員研修会や講習会、歯科衛生士教員研修会に積極的に参加していました。
学生さんに教えるために工夫していることはありますか?
教育として学校で伝えるべきことなのか、診療室で学ぶことか考えて教えるようにしています。
1年生のときは、基礎的なことを理論的に教えて、3年生の卒業近くになったら、教科書ではこうだけど、個々の診療所でやり方が違うから、こういうやり方もあるということを少しずつ伝えています。
真面目に取り組むことはもちろん、大切ですが、実際に働いてからは臨機応変に対応していくことも大切だと思っています。
就職してから柔軟さがないと自分が辛くなってしまいますからね。
ただ、滅菌や消毒に関してなど、絶対に譲れないことは「あなたが変えていきなさい」と伝えています。
専任教員になって大変だったことを教えてください
同じように伝えても10人いたら10人受け止め方が違うので、私が伝えたい温度感がそのまま伝わると良いのですが
なかなか、、そこは難しいなと思います。
個別に話すときは学生の性格に合わせて結論から話すか、過程から話すかなど、伝え方を変えて話すようにしています。
それは今までの経験でわかるものですか?
そうですね。
普段は明るく振る舞っていて、誰とでもうまくやっているような学生が実は無理をしていて心配だったり、
逆に大人しくて大丈夫かなと思った人が強い意志があって全然心配なかったり。
色々な学生と時間を過ごしてきてわかってきました。
さまざま家庭環境の人がいるので、あまり個人的に立ち入ることはできませんが、教務室にきたときにはさりげなく話を聞いてみたりしています。
勉強のことだけじゃなく、心のケアなども必要なんですね
今は、年齢が学生とだいぶ離れてしまって話にくくなったと思うんですね。年齢が近い先生に「ちょっと話をきいてみてほしい。」と様子を聞いてもらうようにしています。
臨床から離れる不安はありませんでしたか?
実習先に伺って、学生が実習している様子を見ると臨床もいいなと思ったことがありました。
患者さんに直接ケアができて、経過もみられますし。
専任教員から臨床に戻る人もいます。
専任教員になると、歯科衛生士として指導する対象が患者さんから学生にかわって、
患者さんの口腔内みたいに、目で見てわかる変化があまりないからかもしれないですね。
それでも専任教員を続けられたのはなぜですか?
臨床でやっていたことを学び直したときに、臨床のときには意識せずにやっていたことも、そうだったんだ!
と、思うことがあったり、学生の成長も楽しみだったので続けることができました。
学校で働いて楽しいことや、やりがいを教えてください
試験に受かるか不安だったり、途中でくじけてしまいそうだった学生が卒業したときですね。
あとは、卒業してから楽しく歯科衛生士をやっているとか、認定資格をとったり、雑誌にのったり活躍していることを聞くと嬉しいですね!
子育てなどでいったん臨床を離れた後また歯科衛生士に復帰したいんですけど、どうしたらいいですか? って学校に相談にきたり、勉強会やセミナーで卒業生と会えたりすることも嬉しいですね。
心に残っている学生さんはいますか?
1年生の3月に辞めますと教務室にきた学生が3年生になって、「そんなこと言ってたっけ?」というくらい普通に卒業していったことが一番印象に残っていますね。
誰しも在学中に1度くらいはやめたい!と思ったり迷いが出るものですが、多くは一時的なものなので。
何かアドバイスをされたんですか?
大体、もう学校を辞めると決意していた学生は退学することが多いんですが、その学生も辞める意志をもって「もう歯科衛生士になりたくありません」と教務室に来たのですが、辞めたい理由を聞いて
「それって今辛いから逃げたいだけで、どこにいってもそういう考えをして自分が辛くなるんじゃない?学校はお金を払っているのに注意を受けているけど、社会に出て、お金を貰うようになったらもっと言われちゃうわよ? もう少し考えなおしてみたら?」と伝えたんですね。
それで思い留まってくれて、実習などしているうちに楽しくなってきたようで、辞めようとしていたこと自体忘れていましたね。
辞めたいと言いに来た学生には、必ず辞めたい理由を聞くんですが、家庭の事情や他にやりたいことが 見つかって今しかできないから
などの理由の場合は、学校を続けていても、本人にとってよくないですし、 進路変更もいいんじゃないかな、と思うんです。
ただよく話を聞いて、明確に辞めたい理由がない、勉強や実習が辛いから辞めたいという学生には、もう一度考えなおしてほしいと伝えています。
歯科衛生士の専任教員になるために求められるスキルやどんな人が向いていると思いますか?
専任教員になるためには臨床経験4年以上と決められているんですね。
ですので、大体5~6年臨床をやって、一通りやってきたので指導してみたいという方が多いですね。
ただ、自分が勤めてきたことを教えたらいいと思って面接にくる方が多いんですけど、
それも必要ではあるんですが、それだけではないので、意外と大変なんだなと、思われる方がいますね。
私はなにより一番は人が好きじゃないと続けていけないと思うんですね。
学生さんも一生懸命やっている方だけではないので、こっちを向かせないといけないですし、しっかり向き合っていかないといけない。
診療の場でも、本来はすべての方を受け入れないといけないんですが、こちらも人間なので自分に合わない患者さんもいると思います。
診療の場ではそのアポイントの時間が終われば、次の機会まで会わないんですけど、学生との関わりはそのように割り切って考える事はできないですしね。
あと教員の仕事は終わりがないんですよね。常に宿題をもっているような感じですかね。
また、医療も日々進歩していますので日々新しい情報や知識を学ぶ、仕事に対する基本姿勢が大切ですね。
これからの歯科衛生士さんへメッセージをお願いします!
歯科衛生士は歯科医院だけではなく、訪問歯科診療や認定歯科衛生士として活躍できる場が広がっているので、
一般歯科業務を身につけてから、訪問歯科衛生指導とか次のステップにいくのもいいかなと思います。
中間層がいないので、ブランクがある方にも歯科衛生士会主催の復職支援研修会などを利用してどんどん現場に出てほしいなと思います。
歯科衛生士が転職・就職を考えたらここをチェック!!
就職アドバイスのプロ!荒木さんから就職・転職活動の際に注意するべきポイントをお伺いしました!
自分に合う職場を探すためには?
臨床実習等の経験をもとに比較、検討し、自分に合うか考えてもらうようにしています。
面接見学を複数するとだんだん疲れてきて「ここでいいや」となってしまう学生がいるんですが、「自分で納得したところで就職しなさい」と
伝えています。
本校では、就職するうえでの条件を10個くらいあげてもらい、そこから重要なものに自分なりの順位をつけて考えるようにと。
希望だけ聞くと、「お給料が高くて、勤務時間が短くて、休みが多くて」となってしまい、なかなか希望に見合う職場が見つからないんです。
でも「今のあなたに見合うお給料はどのくらいだと思いますか?」という質問を交えたりすると、希望額が下がったりするんですよね。
一つの条件にも理由や本当に必要なのかを考えて書くことでどのようなところに就職したらいいか、明確になってくると思います。
面接時・見学時のポイント
そこの医院の先生が
・歯科衛生士に何を求めているのか、何をしてほしいのか
・教育プログラムがあるか
・自分がそこの医院でやりたいことがあるのか?
・1、2年たったときにどんな歯科衛生士業務ができるか
・自分の家族を治療に呼べるところか
を中心に見学や面接に臨んでほしいと伝えています。
卒業生の話ですが、
働いていた歯科医院でなかなか衛生士業務のチャンスがなく、初めて先生に名前を呼ばれたので仕事ができると思ったら「ぞうきんとってきて」って言われたと相談にきたんです。
自分のやりたい業務ができないところだと長く続かないので、しっかり見て聞いてきてほしいですね。
就職して人間関係に悩んでいる方へのアドバイス
小さい社会で、自分と合わない人と働くことは、ものすごく辛いと思います。
先生やスタッフの方と、気が合わないとか、患者さんにうまく伝わらないとかも、そうなんですけど。
歯科衛生士は人相手のお仕事で、物を何個作って終わりとかではないのでコミュニケーションをとることはとても大切になってきます。
そのためにも、相手の気持ちを考えて行動すること。
人との関わり方に絶対正解っていうものはないし、Aさんにはベストだけど、Bさんには合わないとか、相手をよくみて色々考えて話してみるといいと思います。
最後に復職を考えている歯科衛生士さんへ
歯科衛生士に復職することは勇気がいると思いますが、歯科衛生士を離れて他の仕事をしたり、子育てをしていた時間をブランクがあると引け目を感じないでほしい。
そこでしか学べなかったこともあると思うので、歯科衛生士の業務にも経験として生かせると思うんです。なので前向きにどんどんチャレンジしてほしいなと思います。
■編集後記
今回、私が記事を書く際に、専任教員という立場の御方ながら、身近に感じられるよう、記事をライトに書かせて頂くことをご了承いただきありがとうございます。
新卒の学生さんには、「面接・見学のポイント」を、転職の方は「最後に復職を考えている歯科衛生士へ」をぜひ参考にしていただきたいなと思いました。
アポロ歯科衛生士専門学校の皆さま、ご協力ありがとうございました!
取材・文/シカカラ編集部 やぎ
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