歯科衛生士の資格

訪問歯科衛生士になるには?辛い?

投稿日:2017年12月25日 更新日:

訪問歯科での歯科衛生士キャリア

 

日本では、高齢者が年々増えています。

それにともない、訪問歯科診療のニーズも高まり続けています。
(略して「訪問歯科」「訪問」などと言われます)

ここでは、訪問歯科診療における歯科衛生士のキャリアについて見ていきます。

訪問歯科診療のニーズ

厚生労働省の統計「平成26年(2014) 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、5軒に1軒(20.5%)の歯科医院は、何かしらの在宅医療サービスを行っています。

高齢者の家に行く「居宅」と介護施設に行く「施設」は、どちらも全体の14%弱くらいで、7軒に1軒程度が「行っている」という状況です。
訪問歯科診療ニーズ

ちなみに、この数字は前回調査の平成23年(2011)とほぼ同じ割合になっています。

つまり、3年前と比べて、訪問歯科診療を行っている歯科医院の数は、ほとんど増えていないということになります。

一方、訪問歯科診療の患者数を見てみると、2011年と2014年では、特に施設で1.5倍くらいに伸びています

訪問歯科診療患者数

今までやっていなかった歯科医院が、訪問歯科診療を新たに始めるためには、「訪問車を買う」「ポータブルユニットを買う」などの設備投資や、役所への届出などが必要で、結構大変です。

始めるのがいろいろと大変なので、行っている歯科医院の数自体は増えていないですが、訪問歯科診療を受けたい高齢者は増えているため、実施件数(患者数)は増えているようです。

日本は今後ますます高齢者の数、割合が増えていきます。

そのため、歯科医院に通える人は少なくなり、訪問歯科診療の件数・割合は増えていくことが確実です。

日本の高齢者の数

これは、内閣府が出している日本の人口のデータです。(2020年以降の数字は予測値)

2016年時点では、高齢者の人数は約3,459万人、高齢化率(全人口に占める、65歳以上人口の割合)は、約27.3%で、4人に1人が高齢者です。

予測では、2040年には65歳以上人口が3,800万人を超えます。2060年には、高齢化率は40%にもなります。日本の10人に4人は65歳以上、ということになるのです。

(高齢者の人数自体は2040年をピークに減り始めますが、日本の人口全体がもっと早いスピードで減るため、高齢化率は上がり続けます)

訪問歯科診療での歯科衛生士の働き方

訪問歯科診療は、『歯科医院から車で訪問先に移動して、訪問先で診療をして、歯科医院に戻ってくる』という流れです。

訪問先は、高齢者のご自宅もしくは、介護施設になります。

訪問先には、普通のユニットはないので、小型の持ち運び可能なユニット(ポータブルユニット)を使って、診療をしていきます。

1日の基本的な流れ

  • 歯科医院に出勤する
  • 必要な機材や材料を、訪問車に積み込む
  • 高齢者の自宅(居宅)や、介護施設に行く
    ※運転は、歯科医師や歯科衛生士がする場合もあれば、ドライバーが別にいる場合もあります。
  • 訪問先で診療の準備をする
  • 居宅の場合は、場所を確保して、持っていった機材などを配置する。施設の場合は、だいたい診療室が割り当てられるので、そこに機材などを配置することが多い。
  • 患者さんを診療する。歯科医師は治療や義歯調整、義歯の製作などを、歯科衛生士は口腔ケアを主に行います。
    ※施設の場合は、患者さんは普段、自分の部屋にいるので、車椅子を押したりして診療用の部屋まで誘導する。
    (施設の介護スタッフがやる場合もあれば、ドライバーや歯科助手、歯科衛生士がやる場合もあります)
  • 片付けて訪問車で歯科医院に帰る
  • 器具の片付け、消毒・滅菌などをする
  • 必要な書類を書く
のようになります。

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訪問歯科診療における注意点

  • 外来でしか働いたことがない歯科衛生士のほとんどは、ポータブルユニットを使ったことがないと思います。なので、訪問歯科診療に携わるときは、ポータブルユニットの使い方に慣れる必要があります。
  • 訪問歯科診療を受ける患者は、自立歩行が難しく、自分では歯科医院に行けない高齢者がほとんどです。さまざまな薬を飲んでいることも多いです。なので、血が出るような抜歯処置や、長時間口を開いていないといけない処置などは、なかなか行えません。処置の判断は、もちろん歯科医師が行いますが、歯科衛生士もプロフェッショナルとしての意見を求められることもあります。
  • 姿勢と口腔機能の関連性や高齢者介助の知識、スキルも必要になってきます。
  • 治療や口腔ケアを行う患者さんの中には、さまざまな疾患によりコミュニケーションをしっかりと取れない方も多くいらっしゃるため、どんな口腔内の状態で、どんな処置をしたいのかご家族に説明するコミュニケーションスキルが求められます。

求められる知識

一般歯科などで求められる、カリエス、ペリオなどの知識や、スケーリング、SRPなどのスキルと、訪問歯科診療で求められるスキル、知識は違います。

口腔内の疾患だけでなく、全身の疾患との関係を知っておくことはとても良いと思います。

求められるスキル

外来時に行うような細かい歯石を取り除くスキルより、ブラシで大きな食べかすを取り、細菌の繁殖リスクを出来るだけ取り除くことが求められます。

また、訪問時は、体の負担が少ないユニットでの処置が出来ず、椅子やベッドの上で行います。

患者さんに長時間、口を開けていてもらうことが難しいので、素早い口腔ケアをしてあげることも求められます。

VE(嚥下内視鏡検査)

嚥下内視鏡検査のことを、VE(ブイイー)と呼びます。

これは、英語で言ったときの、「swallowing VideoEndoscopy」のVとEをとったものです。

嚥下内視鏡検査とは、のどに内視鏡を入れて、その状態で、高齢者に食事をしてもらいます。

のどに、食べた食物が流れてくるところを内視鏡でパソコンの画面などに映して、「ちゃんと飲みこめているか」を検査します。

のどに内視鏡を入れたり、画面を見ながら、介護施設スタッフやご家族、高齢者ご本人にご説明をしたりするのは、歯科医師が行います。

歯科衛生士がアシストにつくときは、食事の介助をしたり、歯科医師が内視鏡を入れているときに、画面を見て歯科医師にアドバイスをしたりします。

慣れてくると、画面を見せてご家族に簡単にご説明をしたりもします。

VEは、かなり高額なので、持っていない歯科医院(法人)も多いようです。
VEがあっても、行くのは歯科医師だけで、歯科衛生士は行かない、というところもあります。

もしVEの経験を積みたい、と思った場合は、

  • VEを持っていて、頻繁に検査の依頼が来る
  • 歯科医師だけでなく、歯科衛生士も同行する

という方針の歯科医院、歯科医療法人を選ぶ必要があるでしょう。

訪問歯科診療・口腔ケアは命を救う

歯科は、内科や外科と違って、命に直接関わらない、と考えられています。

しかし、高齢者の口腔ケアは、命に直結します

日本の死因の第3位は「肺炎」ですが、これには高齢者の「誤嚥性肺炎」が多く含まれていると言われています。

口の中の細菌を、誤って肺の方に吸い込んでしまい、それが原因となって肺炎が発症し、最悪の場合、死に至ります。

それを予防するために、

  • 口腔ケアで口の中をできるだけきれいにしておく
  • 嚥下機能(えんげきのう、飲み込む力)を訓練して、維持、、回復させる

をして、誤嚥を防ぎ、仮に誤嚥があっても肺炎になりにくくすることによって、命を救うこともできるのです。

2011年に発表された米国の高齢者を対象にした調査の論文では、不適切な口腔ケア習慣(歯みがき回数、歯科医院への通院頻度、義歯の清掃回数など)をもつ者は、死亡リスクが高い、と報告されています。
(男女 5,611人を対象に17 年間追跡した結果)
※Paganini-Hill A, White SC, Atchison KA.Dental health behaviors, dentition, and mortality in the elderly: the leisure world cohort study. J. Aging Res. 2011; ID 156061.

また、2013年に発表された論文では、適切な口腔ケア(1日2回以上のブラッシング、年1回以上の歯科医院への受診、義歯の使用)を習慣的に行っている者は、死亡リスクが低い、と報告されています。
(日本の65歳以上の21,730人を対象に4年間追跡した結果)
※Hayasaka K, Tomata Y, Aida J, Watanabe T,Kakizaki M, Tsuji I. Tooth loss and mortality in elderly Japanese adults: effect of oral care. J. Am. Geriatr. Soc. 2013; 61: 815-820.

仮に肺炎にならなくても、義歯であってもしっかり噛んで食べられる、というのは、健康寿命やQOLに大きく影響を与えます。

訪問歯科診療の重要性はますます高まると考えて間違いないでしょう。


訪問歯科診療で働く歯科衛生士さんにお話を聞いてみました!
「訪問歯科診療は口腔ケアだけじゃない。こんなに奥が深くてやりがいのある仕事に、20代で出会えた幸せ」

訪問歯科診療の2大プレイヤー

日本の訪問歯科診療の2大有名プレイヤーと言えば、

  • デンタルサポート株式会社
  • 医療法人社団 高輪会

です。

デンタルサポートは株式会社で、いくつかの医療法人の訪問歯科診療の運営を手伝っている形になりますが、採用は「デンタルサポート」としてまとめて行なっているようです。

ブランクのある歯科衛生士向けの復職セミナーも開催しているので、興味のある方は行ってみてはいかがでしょう。(参加は無料)

医療法人社団高輪会は、まだ訪問歯科診療の制度がしっかりできる前から、訪問歯科診療を行っている、パイオニアとも言える医療法人です。

訪問しても全然儲からないうちから、社会貢献性が高いという理由だけで訪問歯科診療をスタートさせているので、そういう部分に共感できる歯科衛生士には、合うかもしれません。

デンタルサポートも高輪会も、全国に展開していて、どちらも多くの歯科衛生士が働いています。

居宅にしろ施設にしろ、行くのは週1回か2週に1回程度です。

なので、訪問歯科診療専門で働こうと思うと、週1日のパート勤務でも活躍できます

特に訪問歯科診療がメインの大手法人では、非常勤歯科医師・歯科衛生士の方が多いくらいです。

大手の法人は、悪い噂も立ちがちですが、実際に多数の歯科衛生士が働き続けていることを考えると、噂はあまり気にせず、自分の目で確かめた方がよさそうです。

どういう歯科衛生士が訪問歯科診療で働いている?

訪問歯科診療では、

  • 高齢になってきて、外来に勤めるのが体力的に難しくなってきた歯科衛生士
  • 出産・育児などでブランクがある歯科衛生士

が多く働いている、というイメージがあるかもしれません。

もちろんそういった歯科衛生士もたくさん活躍しています。

一部の歯科医院(外来)のように、短い時間で多くの患者さんのスケーリングをしなくてはいけない、ということや、姿勢が固定化される、ということも、訪問歯科診療だとまずありません。

また、外来に比べると、訪問歯科診療の処置は、「手先の器用さ」の重要性が下がるとも言われており、ブランク明けでも、ちゃんと知識をつけることで、現場で活躍しやすくなります。

なので、高齢になってきた歯科衛生士や、ブランクがある歯科衛生士にとっては、働きやすい環境とも言えます。

一方で、最近は若い歯科衛生士(20代~30代)もたくさん訪問歯科診療で働いているようです。

歯科衛生士学校を卒業してすぐ、訪問歯科診療専門の法人に入る、新卒歯科衛生士もいるくらいです。

理由は色々あるようですが、シカカラで調査したところ、

  • 歯科衛生士学校で、訪問歯科診療について習うようになって、学生時代に興味を持つ歯科衛生士が増えた
  • 今後、高齢者が増えることは確実なので、「長く歯科衛生士として働くため」に、訪問歯科診療の知識・スキルをつけたいと思う歯科衛生士が増えた
  • 今まで担当していた何人もの患者さんが、高齢化して歯科医院に来られなくなってしまった

などの話を聞くことができました。

まとめ

我が国は、世界で類を見ない高齢社会にあり、その高齢社会を支える訪問歯科診療の体制は、世界中で注目をされている医療体制の一つです。

これから高齢社会を迎えようとしている国々が日本の訪問歯科診療の体制を、取り入れるかどうかはこれからにかかっています。

将来、看護師の訪問に、訪問看護ステーションがあるように、口腔ケアを待ち望む患者さんの需要に応えるために、訪問歯科衛生士ステーションが立ち上がるかもしれません。

その訪問歯科の中心にいるのは、歯科衛生士です。


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