歯科衛生士の資格

矯正歯科で働く歯科衛生士の仕事内容とキャリア

投稿日:2017年6月20日 更新日:

矯正歯科での歯科衛生士のキャリアtopimage

 

歯科衛生士として一般歯科で働く以外に矯正歯科で働く歯科衛生士もいます。
今回は、矯正歯科で働こうと考えている歯科衛生士に向けて、矯正歯科の役割や、必要なスキルについてご説明します!

矯正歯科について

矯正歯科とは、歯列矯正(しれつきょうせい)を行う歯科医院のことを指します。

矯正を行っている歯科医院は、平成26年(2014年)末時点で、23,511軒で、歯科医院全体の34%となっています。
3軒に1軒は、矯正歯科を標榜(ひょうぼう: 「やっているよ」と告知している)していることになります。

矯正歯科を標榜している歯科医院の割合

矯正歯科を行っている歯科医院のうち、その多くは、月に1~数回、外部の矯正歯科医師が医院にきて、その日にまとめて矯正治療を行う、というやり方です。

数はあまり多くありませんが、矯正専門の歯科医院もあります。矯正専門の場合は、普通のむし歯治療などは行わず、矯正治療のみを行います。

矯正治療は、ほとんどが自費診療

矯正治療は、歯並びをよくしてきれいに見せる目的で行うことが大半です。これは「審美(しんび)的処置」なので、健康保険は適用されません

また、予防の観点からも、矯正は行った方がいいとされています。
歯並びが悪いと、歯ブラシを上手く使えず磨き残しがたくさん出てしまいますが、歯並びがきれいだと、その心配も少なくなります。

ただ「予防処置」も健康保険は適用されませんので、やはり自費診療になってしまいます。

一部、健康保険が適用される矯正治療もありますが、患者数としてはそんなに多くありません。
(歯が先天的に足りない場合、顎変形症、唇顎口蓋裂など、国が定めた歯並びや咀嚼機能に関する疾患を治療する場合で、歯科医院側が届出を行っている場合に、健康保険が適用されます)

矯正治療での歯科衛生士の役割

矯正治療そのものは、もちろん矯正歯科医師がメインの役割を担います。

その中で、歯科衛生士はどのような業務があるのでしょうか?

矯正歯科における歯科衛生士の業務は、主に

  • 矯正治療時における矯正歯科医師のアシスト(診療補助)
  • 矯正装置が着いている患者さんの衛生管理・TBI
  • になります。

    矯正歯科医師のアシスト

    日本歯科衛生士会の調査によると、矯正を行っている歯科医院で働いている歯科衛生士が行っている業務内容は、以下のようになっているようです。

    矯正歯科の業務実施状況

    多くの歯科衛生士が行っているのは、矯正患者の印象採得で、6割を超える歯科衛生士が行っています。

    矯正の印象採得は、よく行われるカリエス治療時の印象採得と少し違うので、矯正歯科医師の指導のもと、練習して慣れる必要があります。

    次に、装置の撤去となっており、約3分の1の歯科衛生士が行っています。

    そのあとに、装置の研磨・調整、ブラケットのボンディング、MFT、セファロトレース、バンディングと続いています。

    装置の撤去よりも、研磨・調整、ボンディング、トレース、バンディングは、矯正治療の結果に影響を与える度合いが高いので、歯科衛生士が行うのではなく、矯正歯科医師が行っていると考えられます。

    バンディングは、専門性が高いというより、昔は主流だったものの、今はそこまで行われていない、ということのようです。
    ※バンディング: ブラケットをつけるために、歯にバンドと呼ばれる輪っかを装着すること

    もちろん「歯科医師の監督のもと」行っていることは前提です。

    筋機能訓練(MFT)とは?

    MFTは、Oral Myofunctional Therapy の略です。直訳すると「口腔(Oral) 筋機能(Myofunctional) 療法(Therapy)」となります。

    MFTでは、口に関係する、舌、唇、顔の口周りの筋肉をしっかり整えて、不正咬合の原因を取り除くことを目的にしています。

    MFTが必要な患者は、筋肉が弱くなってしまっているために正しく舌や唇などが機能しておらず、歯並びなどに悪影響が出てしまうのを改善する場合が多いです。

    舌や口のまわりの筋肉が弱いと、舌で前歯を押し続けてしまい、前歯が動き、以下のような不正咬合の原因になると言われています。

    • 開咬・オープンバイト: 前歯が噛み合っておらず、奥歯だけが噛み合っている状態。
    • 上顎前突: いわゆる「出っ歯」と言われる状態。

    そこで、訓練を通じて口腔内、口腔周辺の筋肉をしっかり鍛えることで、不正咬合の原因を取り除こうというのが、MFTです。

    筋機能が弱いと、せっかくお金を払って矯正治療を行っても、矯正治療の効果が出づらかったり、矯正治療が終わったあとに、期間が経つとまた戻ってしまったりします。

    なので、矯正歯科では矯正治療とセットでMFTに取り組むことが多いのです。

    MFTでは、まず口腔筋機能の診断・チェックをして、それによって分かった改善すべき部分について、訓練を行います。

    舌を、上に持ち上げたり横に動かしたり、を繰り返すようなプログラムを通じて、筋肉を鍛えていきます。

    積極的にMFTを行っている矯正歯科に勤めると、医学的な知識から訓練プログラムまで、幅広く知識を得ることができるでしょう。

    器具の受け渡しのアシスト

    グラフには載っていませんでしたが、矯正歯科医師への器具・材料の受け渡しも大事なアシスト業務になります。

    矯正治療では、数多くの器具・材料を使います。
    矯正治療は、力を加えて少しずつ歯を動かしていくので、精密さ、緻密さを要求されます。

    そのため、役割は同じでも、細かい部分が違うという器具や材料が多いのも特徴です。

    その膨大な器具や材料を覚えて、歯科医師の指示があったときに、すばやく必要な材料・器具を渡すことが求められます。

    プライヤー(ワイヤーをつかむ器具)の種類などはとても多いので、矯正アシストの経験を積まないと、なかなか覚えるのは大変のようです。

    プライヤー画像プライヤー画像2

    矯正装置が付いている患者さんの衛生管理・TBI

    矯正装置であるブラケットやワイヤーが付いていると、歯みがきが大変になります。

    歯をしっかり磨けていないと、そこにプラークが残ってしまい、むし歯や歯周病になりやすくなってしまいます。

    矯正治療は1~2年ほどかかることが多いので、その間にむし歯や歯周病にならないためにも、歯科衛生士がしっかりと管理・指導をして、患者さんのお口の中をきれいに保つことはとても重要です。

    矯正の経験がないと、矯正装置が付いている場合のTBIを学ぶ機会は多くありません。

    矯正については分からないので、「ワンタフトブラシを使いましょう」「フロスをしっかり使いましょう」というくらいしか言えない、という現役歯科衛生士の話もありました。

    矯正をしっかり経験することで、「矯正装置付き」という特殊な環境での、衛生管理やTBIを身につけることができるでしょう。

    歯科衛生士が矯正歯科で働くためには

    上に書いた通り、矯正歯科で働く、というのは、大きく2通りの意味があります。

  • 矯正専門の歯科医院に勤める
  • 矯正専門ではない歯科医院で、矯正治療のときに手伝う
  • 1の矯正専門の歯科医院であれば、全ての患者は矯正治療を受けにきているので、毎日矯正の知識・スキルを上げていくことができます。

    器具の種類や、用語など、短期間で覚えることができますし、矯正装置付きの衛生管理・TBIのセミナーなどに通わせてもらうことができたりする医院もあるので、矯正治療における歯科衛生士業務を全般的に学び、実践することができるでしょう。

    一方で、矯正専門の歯科医院にいると、通常のむし歯治療や歯周病治療の患者さんは、基本的にはいませんので、一般歯科の診療アシストや、歯周病治療のためのクリーニング、スケーリング、SRP、TBIなどは行いません
    歯科衛生士によっては、その部分のスキルが落ちる、と考えている方もいるようです。

    2の矯正専門ではない歯科医院で、月に1~数回の「矯正日」に、外部から来る矯正歯科医師を手伝う方法もあります。
    この場合は、矯正専門とは逆に、矯正治療の知識・スキルを身につけるには時間がかかりますが、一般歯科側のスキルは維持・向上させることができます。

    どちらを選択するかは、将来的なキャリアプランや、歯科衛生士としての興味・関心、勤めている歯科医院からの求め、などによって総合的に判断しましょう。

    その他のケース

    矯正専門ではない歯科医院で、矯正治療も行っているケースは、実は細かくいくつかのパターンに分かれます。

    外部のフリーランス矯正専門歯科医師が月に1~数回来る、というパターンが最も多いようです。

    しかし、それ以外にも、あまり数は多くないですが、

    • 自分でも開業している矯正専門歯科医師が、月に1~数回手伝いに来る
    • 院長が、一般治療も矯正治療も両方できる歯科医師で、矯正治療も普通に歯科医院で行う
    • 矯正専門医が、常勤で勤務している

    というパターンもあります。

    フリーランスではなく、開業している矯正歯科医師が来るパターンですと、その開業医院に勤めている歯科衛生士をアシスタントとして連れてくる場合もあります。
    矯正治療は、矯正歯科医師と、連れてこられた歯科衛生士で完結してしまうので、その場合は矯正治療の経験はなかなか積みにくくなります。

    また、院長が一般歯科も矯正治療も両方できるパターンや、矯正専門医が勤務しているパターンだと、矯正専門の歯科医院ほどではないにせよ、矯正の患者さんが多いので、月に1~数日しか矯正治療日がない歯科医院に比べると、矯正の経験は多く積めることになります。

    矯正専門歯科医院の求人の特徴

    正確な統計データではありませんが、シカカラDH求人の調査によると矯正専門の歯科医院は、

  • 矯正専門歯科医院の数はとても少ない
  • 給与が少し高め
  • 朝、歯科医院が始まる時間が少し遅め
  • という傾向にあります。

    働く歯科衛生士にとっては、朝が遅くて給与が高めなのはとても嬉しいことだと思います。

    一方、矯正専門歯科医院の数はとても少なく、歯科衛生士の求人を出しているところはさらに少ないので、通勤時間やエリアなどの希望に合った矯正専門歯科医院を探すのはとても大変です。

    矯正専門歯科医院に勤めたい歯科衛生士の方は、できるだけこまめに求人情報をチェックするか、人材紹介会社に希望を伝えておきましょう。

    給与が少し高めなのは、

  • 矯正治療は自費診療なので収益性が高いこと
  • 矯正専門歯科医院で働くと、矯正の知識・スキルは伸びるものの、一般歯科のスキルが落ちると考えている歯科衛生士が多く、「専門はちょっと…」と思う歯科衛生士がいるので、給与を高く設定しないと歯科衛生士が集まらない
  • などの理由があるようです。

    矯正歯科関連の学会

    日本矯正歯科学会
    1926年に発足。「歯科矯正学・矯正歯科臨床の進歩・発展を目的にし対外的にも日本を代表とする学会」(日本矯正歯科学会 ホームページより)

    年に1回、日本矯正歯科学術大会を行っています(3日間)。
    また、スタッフ&ドクターセミナーや、生涯研修セミナーなども行っており、矯正歯科におけるさまざまな知見を集め、広めています。

    認定医・専門医の制度があり、日本矯正歯科学会のホームページから検索ができるので、矯正に強い興味がある歯科衛生士の方は、調べてみてもよいでしょう。
    http://www.jos.gr.jp/roster/

    日本成人矯正歯科学会
    1993年に発足。「成長発育期以後の成人を対象とした矯正歯科医療」を専門とした学会
    http://www.jaao.jp/index.html
    近畿東海矯正歯科学会
    もともと、日本矯正歯科学会の構成団体として発足。日本矯正歯科学会の会則変更に伴い、独立。
    http://www.kokuhoken.or.jp/ktos/index.html
    東京矯正歯科学会
    もともと、日本矯正歯科学会の支部として発足。日本矯正歯科学会の発展的解消に伴い、独立。
    http://www.kokuhoken.or.jp/tos/
    日本舌側矯正歯科学会
    http://www.jloa.org/
    日本臨床矯正歯科医会
    矯正歯科専門開業医のための学会。
    http://www.jpao.jp/
    東北矯正歯科学会
    http://touhoku-ortho.org/
    九州矯正歯科学会
    http://www.jos-k.com/
    北海道矯正歯科学会
    http://www.hos.gr.jp/
    日本歯科矯正専門医学会
    http://www.jso.or.jp/
    米国矯正歯科学会 (American Association of Orthodontists)
    https://www.aaoinfo.org/  (※英語表記)
    日本矯正歯科協会
    http://www.jio.or.jp/
    ヨーロッパ矯正歯科学会 (European Orthodontic Society)
    http://www.eoseurope.org/  (※英語表記)
    世界矯正歯科連盟 (World Federation of Orthodontists)
    http://www.wfo.org/  (※英語表記)

    ※Google検索で「矯正歯科 学会」で検索し、1~10ページ目に出てきた検索結果の順に列挙しています。


    一般歯科・矯正歯科のどちらも行う歯科医院の院長インタビュー「歯科衛生士に求めることとは?」

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